日本をネタにした海外のお笑い芸人(スタンダップコメディアン)10選

海外(英語圏)で主流のお笑いと言われている「スタンダップコメディ」。舞台から観客に対して漫談を披露する芸のことです。この記事では、日本に関するネタを披露したスタンダップコメディアンを、ネタと一緒に紹介します。

ジョー・コイ

アジア系アメリカ人のスタンダップコメディアンとして最も有名と言えそうな知名度があるのがジョー・コイです。宮崎駿の「君たちはどう生きるか」が「最優秀長編アニメーション映画賞」を受賞した2024年の「ゴールデングローブ賞」の授賞式でスタンダップコメディを披露したとき、部分的に恐ろしくすべったと話題になりました。

ジョー・コイがすべったとされる瞬間の会場の様子。(動画

アジア人にまつわるネタが多いジョー・コイが2019年のパフォーマンス「ジョー・コイの急になんだよ!(Jo Koy: Comin’ in Hot)」で披露したのが、日本人の話し方をまねするネタです。アジア人の様々なアクセントをまねするネタの一部として、腹から声を出す日本人男性や、少女のように話す女性を表現しています。ライブでは、アジア人が多い会場でアジア人スタンダップコメディアンとして、あるあるネタで無双しているような状態にも見えました。(それを踏まえてゴールデングローブ賞のときのパフォーマンスを見ると味わいぶかいです。)

チェルシー・ハンドラー

ジョー・コイの彼女だったことでも知られるアメリカのスタンダップコメディアンがチェルシー・ハンドラーです。独身女性があっけらかんと自分の失敗を話したり変な男性のことをつっこむような芸風で知られています。「おてんばが過ぎるキャリー・ブラッドショー*」などと言えそうな雰囲気が面白いです(*キャリー・ブラッドショーとはアメリカの人気ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」の主人公のことです)。2022年のパフォーマンス「チェルシー・ハンドラーのレボリューション(Chelsea Handler: Revolution)」では、自身の女性器をさして「ピカチュウ」と呼んでいます。セックス・アンド・ザ・シティでキャリー・ブラッドショーが女性器を「スシ」と呼んだシーンを思い出しました。

ボブ・ザ・ドラァグクイーン

男性が女装するパフォーマンス「ドラァグクイーン」としてアメリカで有名なのがボブ・ザ・ドラァグクイーンです。スタンダップコメディアンとしては、「女装家のゲイ(LGBTQのG)がゲイのゴシップを面白おかしく話す」という味わいのパフォーマンスで知られています。動画のパフォーマンス内で、デーティングアプリで男性器の写真をポップに交換したがるゲイをいじりながら「ポケモンカードか」のようなことを言っています。

ハンナ・ギャズビー

脚本のクオリティが群を抜いて高いと言われる、オーストラリア出身のレズビアン(LGBTQのL)のスタンダップコメディアンがハンナ・ギャズビーです。フェミニスト(男女平等をめざす思想を実践する人)が男性社会(とくに白人男性)の滑稽さをウィットでつっこむような芸風で知られています。2020年にアメリカ人に向けて発表された「ハンナ・ギャズビーのダグラスに捧ぐ(Hannah Gadsby: Douglas)」では、自分の女性器におきた問題をピル(経口避妊薬)で画一的処理しようとする男性医師に反抗してジョークを言うという流れで「女性器をこんまり*してときめかしたろか」のように表現しています。(*「こんまり/KonMari」はアメリカで有名な片づけコンサルタント「近藤麻理恵」のことで、「ときめく(spark joy)かどうかを基準に片付けよう」のようなユニークな主張で知られる人物です。アメリカでは「こんまり/KonMari」が「片付ける」のような意味の動詞として使われることもあります。)

スタブロス・ハルキアス

スタブロス・ハルキアスは地中海に面したギリシャという国にルーツを持つアメリカ人のスタンダップコメディアンです。「太った陽気な地中海の男がおばかな事を話している、と見せかけて世の中の茶番をつっこむ」のような芸風で知られています。2023年のパフォーマンス「ファット・ラスカル(Stavros Halkias: Fat Rascal)」では、自虐ネタとして、自分の小さな男性器を、白人が握るへたな寿司に例えていました。また、性行為中に格闘技の寝技のごとくタップしてしまったと主張する観客の男性をいじる際に「キムラ*やん」のように言っていました。(*「キムラ(Kimura Lock)」とは柔術の技で、柔道家の木村政彦が使ったことに由来するそうです。)

ジミー・カー

イギリスで最も有名なスタンダップコメディアンかつ芸能人のひとり、と考えられているのがジミー・カーです。サイコパスな様子で身なりのいい白人男性が、一般論について、不快感を感じる次元の皮肉をわざと言って茶番をいじるという味わいの芸風で知られています。2021年のパフォーマンス「ジミー・カーのギリギリまで言わせて(Jimmy Carr: HIS DARK MATERIAL)」では、ビーガン(動物性食品をいっさい摂取しない人のこと)の観客とコミュニケーションする際、相手に対して「声が小さい。豆腐じゃ元気でんわな。」のようなことを言っていました。同じパフォーマンスの後半で、「たまごっち流行りましたよね」という話もしています。

トム・セグラ

アメリカのスタンダップコメディアンのなかでも圧倒的な実力をもつ最高峰の噺(はなし)家。のような印象をもたれているのが、ペルー系アメリカ人のスタンダップコメディアンのトム・セグラです。何を話してもタブーを見出してしまう、根がダークな視点がジミー・カーに似ていなくもないです。でもジミー・カーと比べて、アメリカ人らしく、一線を越えずに狡猾にふざけている気配が漂っているように見えなくもないのが、際どくてユニークです。2018年のパフォーマンス「トム・セグラの恥さらし(Tom Segura: Disgraceful)」では、「セグラ(Segura)」という自分の苗字について、「日本人なの?」と聞かれることがある、と言っていました(「もちろん」と答えていました)。たしかによく聞くと、「セグラ」の英語の発音と「桜」の英語の発音が似ています。(車の「ホンダ」と「ヒュンダイ」の英語の発音が似ている話を思い出しました。)

ジム・ガフィガン

老若男女が安心して聴ける健全な「クリーンコメディ」の達人として知られているのがジム・ガフィガンです。紅葉やマクドナルドをいじっているだけ〜。のような印象があるジム・ガフィガンですが、根底に皮肉があるようにも聞こえるので、不快感をともなう「ダークコメディ」のようになりそうでならない、という味わいがあります。ジミー・カーやトム・セグラのようにくそ野郎になれる人があえて誰も傷つけずにふざけている。というふうに見えることがあるので、崇高な態度を感じます。2018年に発表した「Jim Gaffigan: Noble Ape」では、日本旅行についてのネタを発表しています。「日本のトイレは高性能すぎて確定申告もしてくれる」とさらっとぼけていて面白いです。

ケヴィン・ハート

世界で最も有名な黒人のスタンダップコメディアンの一人と言ってよい知名度なのがケヴィン・ハートです。見るからに面白い低身長(157cm)の黒人が高い声を出して大暴れするというコミカルなイメージが持たれているケヴィン・ハートが、家族や身の回りのおかしな瞬間を滑稽に演じていて、おかしいです。2019年のパフォーマンス「ケヴィン・ハートのオレは無責任(Kevin Hart: Irresponsible)」では、日本旅行のネタを披露しています。ジェットコースターで死ぬかと思った話が面白かったです(日本のへんなノリが生むおかしな瞬間を見抜いたうえで翻弄されていく様が圧巻でした)。

デイヴ・シャペル

いま地球に存在するスタンダップコメディアンのレジェンド、とされるアメリカ人のスタンダップコメディアンがデイヴ・シャペルです。アメリカの活動家「マルコム・X」と同じイスラム教徒の黒人が、どことなくアメリカ人にアメリカの理不尽を伝えている。と取れなくもない内容でありながら非国民な態度はとらず、アメリカ人が楽しめる話として滑稽なので味わい深いです。2017年のパフォーマンス「The Age of Spin: Dave Chappelle Live at the Hollywood Palladium」では、アジア人に対するアメリカの態度の話の中で、アメリカが日本に原子爆弾を落としたことをネタにしています。「そっからあいつらずっとハローキティとか描いとるわ」と、アメリカ人が安心して笑える日本人像がオチとなっていました。