アメリカのスタンダップコメディアン「ジェリー・サインフェルド」

アメリカで一番有名なスタンダップコメディアンと言ってよいであろう知名度の人物がジェリー・サインフェルドではないかと思います。「アメリカで最も稼いだコメディアン」としても知られている人物です。ジェリー・サインフェルドが制作したドラマ「となりのサインフェルド(Seinfeld)」も有名で、ウィキペディアでは「アメリカ人の4人に1人が見たという国民的コメディドラマ」と言われていました。作中ではジェリー・サインフェルドが主人公/本人役(スタンダップコメディアンのジェリー・サインフェルド)として出演しています。

↓となりのサインフェルド(Seinfeld)の動画

神とか仏とか、もはや概念のような存在と言ってもよさそうなジェリー・サインフェルドの芸風は「アメリカの凡人がアメリカの普通の生活の中で経験する滑稽な瞬間や矛盾をつっこみながら話している」といった感じに聞こえました。ばかをばかにしたい。なんてことはないのかもしれませんが、そのような心の声が聞こえそうで聞こえない様子で「まじであれなんなの?」のように言っていくのですが、そのとき鬼の首とったような態度にはならず、くだらない話として言うので、本当にただのくだらない話に聞こえます。

ネタのトピックが徹底して凡人の生活なのが親しみやすくてユニークだと感じます。先進国の都会の人なら誰でも共有できそうな話かもしれません。たまに飛行機に乗ることがあるアメリカの社会人(日本でいう新幹線に乗るサラリーマンといったところでしょうか)のような一般人が経験する普通の生活の話がネタの漫談です。それを、「私は概念のような存在だから観客(凡人)と日常で交わることはないでしょう」のようなことを真顔で言うジェリー・サインフェルドが舞台で言うので面白いです。

2020年のパフォーマンス「ジェリー・サインフェルド: 退屈しのぎの23時間(Jerry Seinfeld: 23 Hours to Kill)」では、いま地球にいる芸能人として異次元な成功を納めたスーパースターのジェリー・サインフェルドが、「神が民を楽しませてあげている」のような気配さえ漂うパフォーマンスを平常運転で実施しているように見えて、これをネットフリックスで見せられている民としては、一体なにがどうなっているのか拝みなおしたい(ジェリー・サインフェルドはニューヨーク出身のユダヤ人、つまり人間ではあるはずなので)という気分になりました。「人生ひまつぶし」のような神がかった態度にも説得力がともなう人物が、なぜかわざわざ凡人の退屈なトピックを話しつづけながら「あのときおかしくないですか」「これはゆるされないのにあれはゆるされますよね」といった視点(個性)を匂わせていく。「だから意味や価値は状況で変わるっつってんだろうがよ」と何度も何度も何度も訴えているのに絶対にぴりぴりしないので観客がぼーっと笑い続けていられるところなど、何もかもが紙一重で、神がかった芸ではあるのかもしれません。