アメリカのスタンダップコメディアン「ダスティ・スレイ」

スタンダップコメディが好きでネットフリックスなどをかかさずチェックしているようなアメリカ人なら「あーー」となりそうな評判の実力者がダスティ・スレイ、と言えるでしょうか。アメリカ南部(アラバマ州)の貧乏な環境で育った変人というキャラクターのイメージが持たれていることもあるスタンダップコメディアンです。

ダスティ・スレイの芸風は「学のない態度で、もしかしたらクレイジーな奴の可能性がある見た目だけど実はまとも、かと思いきややはり変人ではある様子で憎めない外見の白人男性が、変になってしまっている自分の行動や身の回りの出来事について平熱でちょっと笑いながら話す」といった内容です。

「チルい」という言葉をたまに聞きますが、その成分がつよい笑いが多いように感じました。「定型のコメディを元気いっぱいやっていくのはしんどい」といったバイブスが溢れていて、尖っているのか尖っていないのかよくわからない態度がユニークです。変な見た目だけど地に足ついた愛嬌のある人物ということもあってか、会場で起こる笑いが、かわいいものに対する期待や承認を表したような感じにも聞こえて、複雑でリアルだと思いました(きっと、あらかじめ笑い声を録音した「録音笑い」は使っていないのだろうなと思います)。とにかく聴いていて幸せな気分になります。

ダスティ・スレイの話は「おばかな人のおばかな話」や「底辺の日常」のように聞こえますが(というかきっとそうではあるのですが)、なんだかんだ茶番や矛盾への洞察がするどい視点が奥に控えている気配があり、緊張感や聞き応えがあります。神経質な人が全神経を注いで緊張感を排除しにかかっているパフォーマンス。のような味わいを感じました。緊張感と多幸感が味わえる中毒性のあるライブ。などと言えるのかもしれません。そんなふうにして改めてダスティ・スレイのパフォーマンスを刮目すると、犯罪者が時折みせる挙動不審な態度とだぶってしまい、笑いました。