スタンダップコメディが好きなアメリカ人なら絶対に知っている、と言ってもよさそうな知名度があるスタンダップコメディアンがシェーン・ギリスです。アメリカの国民的お笑い番組「サタデー・ナイト・ライブ(Saturday Night Live)」に出演していたことでも知られています。シェーン・ギリスの芸風は「アメリカ人が見たら安心感を感じるような、どこにでもいそうな白人男性が、謙虚に自虐しつつタブーで遊びながら茶番をいじる」となるでしょうか。怒られないようにふざけてやろう、うっしっし、みたいな態度がユニークだと感じました。
そのへんの白人の兄ちゃんが悪ふざけしているようにも見えましたが、話をよく聞いていると、含蓄や洞察によって、人を傷つけず、すれすれのばかをやっても許される状態を狡猾に担保しながら、精神力を使って話しているように感じました。話を聞いていて疲れなかったので、すごいなと思いました。おつかれさまです、などと言いたいです。絶対にふざけてくるはずのに、「ふざけてやるぞー!」というエネルギーが飛んで来なかったので、素直に笑うことができました。戦争や政治といった緊張感のあるトピックについて話していても、あほな話に聞こえたので本当にすごいと思います。
シェーン・ギリスの話を聞いていると、現代社会のホットトピックについての下調べが済んでいて自分の視点が明確な人が、あほな話に視点をちりばめてブレンドして喋ってくる。という味わいを感じました。それを言う理由をたどることで本人の思想がうかがえる、という奥行きがあり、飽きのこない味わいも感じます。話を聞いているうちにじわじわとシェーン・ギリスの人物像がわかってきて、その頃には信頼と笑いが蓄積されていて、という味わいを2023年のパフォーマンス「Watch Shane Gillis: Beautiful Dogs」から感じたのですが、そんな漫談の後半で満を辞してくりだされた、身内の障がい者のおじさんのネタには笑わされました。あと、ドナルド・トランプのものまねがしれっと上手いのに、ものまねの上手さに目がいかなかったのも、今となってはすごいと感じます。「いけいけの白人男性」みたいに見えないところがプロフェッショナルだと思いました。