スタンダップコメディが好きなアメリカ人だったら絶対に知っている。と言えそうな知名度のスタンダップコメディアンがトム・セグラです。いかにも「アメリカの漢」といった外見でありながら「キュート」とも言えそうな様子で、なんというか、IQが高そうなイメージがあります。本人もたまにネタにしていますが(そうやってネタにするくらい、ぱっと見でわからないからだと思いますが)、トム・セグラはペルー系アメリカ人です。つまり南米にルーツがあり、スペイン語が話せます。だから「ラテン」や「ヒスパニック」というカテゴリーに該当するけれども、そうとは認識されてない様子なのが興味深いです。ギャップがある、というやつでしょうか。なんとなくですが、知能犯と呼びたくならなくもないです。
トム・セグラの芸風を一文でまとめると「男らしくて愛嬌のある、アメリカ人が見たら安心するような風貌の白人男性が、チャーミングな表情で皮肉たっぷりにタブーなことを言ったりする」となるでしょうか。「極悪のザック・ガリフィアナキス*」などと例えてしまいたくなる胸騒ぎを感じました。(*ザック・ガリフィアナキスは、アメリカのコメディ映画「ハングオーバー」のシリーズに登場する変人「アラン・ガーナー」を演じたコメディアン/俳優です。)ただしザック・ガリフィアナキスとは違い、トム・セグラはスペイン語も話すヒスパニック系アメリカ人ということもあり、白人白人していない空気が出るときがある気がします。そういうとき、味わいぶかいと感じます。
障害者とアジア人をいっぺんにネタにするトム・セグラ。(Image via youtube)
漫談中のトム・セグラは、しれっとど下ネタを言ったり、アメリカ社会で一発退場といった印象が無くもない小児性愛をネタにしたりするので、聞いていてスリルを感じます。本来なら笑えない(どころか本気で怒られるかもしれない)話ですが、その先に笑いが潜んでいて、トム・セグラがしれっとそれを届けてくれるので、そのスマートさに尊敬の念を抱かなくもないです。「チャーミングなブラックコメディ」と言えるのかもしれません。笑ってはいけないけれど笑ってしまう、のような。たまに、「おげれつなことでガハガハ笑いたいアメリカの漢たちにチューニングした話」のように聞こえることがありますが、聞いていて嫌な気分にはなりにくいです。なぜなら多分、ロウブロー(教養がないさま)な話を、ハイブロー(教養があるさま)な態度でやる。といった、匠な気配が感じられるからだと思います。それによって緊張するので、最後まで聞かされます。これがプロのストーリーテラー(エピソードトークをするスタンダップコメディアン)か、と思いました。
余談ですが、トム・セグラの友人でありスタンダップコメディアンのバート・クライシャーと共演しているポッドキャスト番組「2 Bears, 1 Cave with Tom Segura & Bert Kreischer」も面白いです。アメリカでたまに話題になる「熊系ゲイ」というニッチな界隈を喜ばせようとしているらしいと知ったとき、なんだそれ笑、となりました。